« 大人の倫理 | Main | 偽造カードによる補償はどうなる? »

2005.01.26

1円起業への疑問

 起業ブームを起こそうということでしょうか。最低資本金額の撤廃を政府は検討しています。起業が活発になり、経済が活性化することはいいことです。大いに検討してもらいたいものだと思います。でも、最低資本金額を撤廃して1円起業を認めると経済は活性化するのでしょうか。私は非常に疑問に思います。

 日本では起業が低調だから、会社を作りやすくして多くの人に起業してもらおうという論理なのでしょうか。ここには、”起業=会社の設立”という前提があります。果たしてこれは正しいのでしょうか。

 起業が低調なのは、最低資本金が原因だということも、それが多くの原因の1つの要素であるという意味でその通りだと思います。しかし、主たる原因は別のところにあるのではないでしょうか。私は、経営者(=企業の所有者)への過重な責任追及がその原因なのではないかと考えています。事業を起こすには、どんな事業であれ必ずリスクが伴います。成功した時の報酬は青天井だけれど、失敗した時に背負う負債も青天井だとしたら、あまりにも振幅の幅が大きすぎると考える人が多いのではないでしょうか。それに報酬は青天井ではないことはみんな解っています。経営者であっても、アメリカ企業のように一般従業員に比べて桁が2つ3つ多い金額を受け取るわけではありません。これは国民性もあるでしょうし、税制等も関係していると思いますが、いずれにせよ青天井に報酬を受け取れるとは考えませんし、期待もしていません。一方、失敗した時の負債は青天井です。経営者の包括根保証という契約を条件に企業は融資契約を結んでいますから、負債はどこまで膨らむかわかりません。成功した時のリターンは上限がなんとなく見えているけれども、失敗した時のリスクは計り知れない。このような状態で敢えてリスクをとって起業しようとする人は、よほど自信があるか、考え方が普通の人と違うかではないでしょうか。普通の人と違う考えができるから起業して成功できるのかもしれませんが、そういう考え方をする人は少数派でしょう。そうであれば1円企業を認めても、起業が多くなって経済が活発化するとは言えないはずです。

 それでは経営者(=企業の所有者)の包括根保証をなくせばいいのでしょうか。金融機関がなぜ経営者の包括根保証を求めるのか考えてみたいと思います。
まず、最初に考えられるのが経営者の自覚を促す効果です。経営に手を抜いたら自分が困ることになるというプレッシャーを与えて、経営に専念してもらって失敗を防ぐというものです。
もうひとつ思い浮かぶのは、会社は債務超過でも経営者に資産があって、これを合算すれば正常なバランスになるというような金融機関の自己査定マニュアルに出てくるようなケースです。これによって金融機関の融資が可能になって、企業の存続が図れることもあります。このような時に経営者が包括根保証人でなくては話になりません。

 以上のようなことを勘案してみますと、中小企業においては会社の形態をとっていても個人事業主と機能的には何ら変りはないといえると思います。会社組織のメリットは、本来は有限責任です。大きな事業を個人で行うにはリスクが大きすぎるため、会社組織にしてリスクを分散して企業家に大きな負担をかけないようにしているのです。

 今、多くの事業が会社組織で行われているのは、リスク分散ではなく、税制の面で個人事業よりも有利であったり、対外的信用を得るためで、どうも本来的に法人組織が必要ではなさそうです。一応、株式会社という社名があればないよりは信用してもらえそうですが、多くの人は既に株式会社という名称だけで信用はしないでしょう。1円起業が多くなればなおさら信用は低下するものと思います。税制の点で会社にしているのなら、税制が変われば会社である必要はなくなります。

 私が思うには、1円起業が多くなると過小資本の企業が増えることになり、金融機関にとって経営者の包括根保証はより必要になるではないでしょうか。起業を増やして経済を活性化するには、包括根保証をなくして、経営者の保証は上限を資本金の何倍までとか、売上の一定割合までとか、役員報酬の何倍までとか、経営者のリスクを限定してあげることではないかと思います。一律に保証の上限を規制することは、業種によって事情が違うでしょうから難しいと思いますが、何らかの形で経営者のリスクを制限することだと考えます。

 このようなことをすれば当然金融機関からの借り入れも自ずと制約されるでしょう。しかし、資金調達をスムースにして事業を拡大したければ、会社の経営状態を良くすればいいのです。経営基盤が脆弱なうちに無理に事業の拡大を図るから、つまづく可能性も増えて、つまづいた時の負債も膨らむのです。それでも資金が欲しいのなら、事業計画を宣伝して出資を募ることです。

 このように考えていくと、1円起業は果たしていい結果を生むのかどうか、はなはだ疑問を持たざるを得ません。

|

« 大人の倫理 | Main | 偽造カードによる補償はどうなる? »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/64797/2692048

Listed below are links to weblogs that reference 1円起業への疑問:

« 大人の倫理 | Main | 偽造カードによる補償はどうなる? »