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2005.04.04

尊厳死

 「誠実で利他的な動機にもかかわらず、立法府と行政府は、自由の国民を統治する建国の父の青写真-米憲法-に明らかに逆行する振る舞いを行った」
 フロリダ州裁判所は三月十八日、シャイボさんの尊厳死を目指す夫の主張を認めて栄養チューブの取り外しを命令。連邦議会上下両院は同二十一日までに、連邦裁に対してシャイボさんの尊厳死問題を新たに審理することを求める異例の緊急法案を可決、ブッシュ大統領の署名を経て成立させた。シャイボさんの両親は緊急法成立を受け、連邦地裁、高裁、最高裁に対し、相次いでチューブ再装着を求める申し立てを行ったが、同二十七日までにことごとく却下された。ジョージア州アトランタにある連邦高裁のバーチ判事は三月三十日、シャイボさんの延命を図るために緊急法を制定した連邦議会とホワイトハウスの介入を「憲法違反」と批判した。

 植物状態の女性の尊厳死をめぐって、夫は尊厳死を求め、両親は延命を求めていますが、司法は夫を支持、立法と行政は両親を支持したという構図です。アメリカでの話しとはいえ、何か考えさせられます。尊厳死とは、自分の「死に方」を自分で決めるという点で安楽死とは区別されますが、植物状態になった本人の意思と植物状態でも一緒にいたいという家族の意思が対立したときにどちらの意思を優先させるかは非常に難しいところです。

 論理的には本人の意思を尊重すべきだろうと考えますが、そういいながらも直る見込みのない植物状態の患者がいた場合、延命は家族にとって経済的にも精神的にも大きなダメージを与えることになるということと、社会的に医療の無駄遣いではないかということも無意識にではあっても考えている自分がいます。つまり、本人の意思よりも植物状態の患者がいることによる周りの負担を軽減するために「死にたい」という意思を実現させているのであって、本人の意思を尊重しているわけではないのではないかと自問しているということです。ただ、人は一人で生きているわけではない以上、そのような考えも否定する必要はないはずです。

 葬式は何のためにやるのかといえば、死んだ本人が希望したからというよりは、生存している関係者が弔いたいからやっているといっていいと思います。遺言が書かれていても、遺言で指定された相続人と法定相続人(通常は同一であることが多いと思います)という関係者全員が合意すれば、遺言と違った分け方をすることは可能です。死亡したことが明らかであれば、本人に意思はなく、生前に意思表示していても生存している者の意思のほうが優先されることに不都合はありません。しかし、「尊厳死」は死に方を決めるのですから、植物状態でも生きているということを忘れてはいけません。

 生きている本人の過去の意思と、本人の面倒を見ている家族の現在の意思との対立があった場合どちらを優先するのでしょうか。本人が「尊厳死」、家族が「延命」を求めるのであれば、この場合は本人の意思を尊重すべきといえるのかもしれません。でも、本人が「延命」を求めながらも家族が負担に耐え切れなくなった場合はどうでしょうか。この場合は「尊厳死」ではなく「安楽死」の問題になりますが、治る見込みのない植物状態の患者を死なせたことで一概に家族や関係者を責められるものではありません。延命によって医療の無駄遣いとなって他の助かる患者が助からないようであれば、安楽死と殺人とは明確に分かれるように思います。そうすると、本人が「尊厳死」を求める場合であっても、本人の意思を尊重するといいながら実は社会的な効率性がベースにあるのではないかという疑問が沸き起こります。

 アメリカのシャイボさんの尊厳死は、三権分立といいながらも司法は立法と行政の「慎重に審理せよ」との意見具申を、憲法違反の越権行為と断じている点に違和感を覚えます。事は人の命の問題です。もう一度審理することは無駄なことと言い切れるのでしょうか。恐らく、米国の司法機関は植物状態であることを死んでいるに等しいという認識なのかもしれません。でも、そうであるなら「尊厳死」ではありません。尊厳死は死に方を本人が決めるのであって、既に死んでいるのなら尊厳死の出る幕はありません。そうすると、裁判所は生きている人間の意思を最大限に尊重して、少しでも早く尊厳死させてやることが本人のためになるという論理なのでしょうか。いずれにせよ、一度死んだら元には戻せません。それにもかかわらず死を急ぐような姿勢には理解しがたいものを感じます。そしてこの違和感があるがゆえに、合衆国憲法違反であるという冒頭の裁判所の意見には賛成できません。

 

 

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