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2005.08.12

郵政民営化~おさらい

 今度の選挙の最大の争点となる郵政の民営化について、基本的な考え方を整理しておきたいと思います。私は郵政民営化に賛成なのですが、賛成派・反対派それぞれの言い分をしっかり聞いた上で選挙で投票したいと考えます。

 郵便貯金、簡易保険で集められた資金は、以前は年金の資金などと一緒に財政投融資として、一般の金融機関の融資では採算の取りにくいような事業に向けられていました。具体的な例としては、今話題の道路もその一つです。昔から談合を行っていたのかどうかは知りませんが、仮に行われていたとしても財政投融資自体が真に意味のあるものだったときには、そう大きな問題もなかったのだろうと思います。高度成長期の頃までは、道路をつくればその道路を通って運ばれる物資の量が増えて経済が活性化し、道路を使う国民(企業も個人も)はそれによって収益が上がって収入が増え、結果として納税額も増えました。国民も財政も潤う道路を作るときに、談合で多少割高なものを作ってもそれほど大きな問題にはならないのは、当たり前といえば当たり前です。道路のような公共財は本来税金で作るものなのでしょうが、国家予算がそう多くない時代にはなかなかそこまで資金が回りませんでした。かといって国民の税負担を多くして、その資金で道路を作っても、かえって経済は萎縮してしまいます。その点郵便貯金は最適でした。国が利息をつけて返すことを約束して資金を集め、その資金を国に必要な事業に融通して国民が豊かになって、その結果、国の財政も豊かになる。だから集めた資金に利息をつけて返すことも可能になります。

 でも今はどうでしょうか。今は道路を作っても、混雑の緩和など快適さは増すでしょうが、それによって物資の量が増えて経済が活発になるということはなくなりました。既に必要な道路はほぼあります。快適さを増すための道路はこれからも作っていく必要はありますが、他から資金を融通してもらって作っても、それで経済的に発展して税収が増えるというわけではありません。郵便貯金や簡易保険の資金を融通しても、利息をつけて返すという約束を守ることが難しくなります。道路に限らず、港や飛行場もそうです。鉄道や電信電話は、昔は財政投融資で整備されてきたものですが、今や国に頼らずに民間の事業者としてやっています。必要性が低下したのに資金はありますから、結局無駄な使い方をしてしまったわけです。これは何とかしなければならないといって、財政投融資のような資金の流れを変えました。その結果、郵便局は郵政公社という形態になりましたが、利息をつけて返すと約束した資金は変らずありますから、これを何とか運用しなければなりません。といって郵政公社の人もいい運用方法を知りませんし、ノウハウもありません。返さなければならない資金ですからリスクの高い運用もできません。結局、国債などで運用するようになります。

 バブルの崩壊後の景気低迷を何とかしようと、90年代に政府はかなりの財政出動を行って景気テコ入れを図りました。残念ながら、そのほとんどは効果があったかどうかは疑わしい、というのは今だからこそいえることですが、国がカネを使ってテコ入れをしていなかったら、景気の谷はもっと深いものになっていたかもしれません。いずれにせよ国は借金を増やしてしまいました。借金をするに当たって郵政公社の資金は役立ちました。国の借金のすべてが郵政公社の資金ではありませんが、重要な国債の引き受け先であることは確かです。

 郵政民営化よりも緊急にやることはあるとして、野党やマスコミは財政の健全化や社会保険制度のことをいいますが、財政健全化の一つの重要な要素として郵政公社が引き受けている国債をどうするかというポイントがあり、財政の健全化の道筋をつけずに年金など将来の社会保険のあり方を議論しても、財政的裏付けのない空論に過ぎません。確かに郵政の問題だけクリアすれば、それで万事OKというわけではありませんが、郵政問題の決着を早くつけなければそのほかの重要な問題に手がつきません。

 国債の発行残高を減らして、国の借金を減らさなければならないことには誰も異論はありません。そのための方法として、郵政公社が国債の引き受けを減らすことには郵政民営化の賛成派も反対派も同意しています。問題はその減らし方です。急激に減らせば国債の価格は暴落して金利が急上昇します。そして経済に混乱が起きることを賛成派・反対派ともに懸念しています。金利が上昇して困るのは借金を抱えている人です。支払わなければならない利息が増えますから大変です。日本国内で一番大きな借金を抱えているのは、恐らくは政府です。中央と地方を合わせると、政府の借金は1,000兆円にも上るといわれています。国が潰れてしまっては年金も何もあったものではありません。ですから、急激な金利上昇を伴うやり方はマズイのです。

 そこで民営化反対論者は言います。「民営化したら国債の引き受けをしないという選択肢を民営化した郵便貯金会社や簡易保険会社に与えることになる。国債暴落の危険がある。」
 しかしそんなことになるのでしょうか。民営化したとたん一切の国債の引き受けを止めてしまえば暴落はするでしょうが、私はそんなことにはならないと考えます。民営化しても郵便貯金会社や簡易保険会社は、以前に購入した国債を資産として持っています。もし国債が暴落したら、資産として持っている国債の価値が下がって大きな損失を蒙ることになります。民営化によって国債よりも有利な投資先を探して、その分国債の引き受けを減らしてそれだけ国債の価格も下落するのでしょうが、下落によって民営化した会社が蒙る損失は新たな有利な投資条件の範囲内に収まるはずです。そうでなければ会社が潰れてしまいます。国債よりかなり有利な投資先が数多くあるなら話は別ですが、リスクとリターンを考え、いずれは確実に利息をつけて返さなければならない資金であることを考えますと、そんな条件の投資先は残念ながらそう多くはないのではないでしょうか。ですから、国債の下落は急激なものになる可能性は極めて小さいはずです。さらに、それでも市場では何があるかわかりませんから、民営化後10年は政府の関与を残すとしています。関与を残す10年間が長すぎるのかどうかはいろいろ議論はあるでしょうが、少なくともこの間に国債の暴落はないものと考えられますし、10年間のうちに国債暴落の懸念を減らすように財政の健全化を図っていかなければなりません。

 民主党の岡田さんは、反対の多い民営化をやらなくても、郵政公社のままでも国債引き受けを減らす方法はあるといっています。どういうことかというと、郵政公社の資金量自体を減らせばいいといいます。郵便貯金の預入限度額は現在1,000万円までですが、この限度額を700万円とか500万円へと下げていけば公社の資金は減っていきます。国債を引き受ける資金が減り、その分民間金融機関や株式市場などに資金はシフトするから民営化しなくても改革はできるといいます。

 民営化した直後の郵便貯金会社や簡易保険会社は、既存の民間の銀行や保険会社に比べてあまりにも規模が大きく、民業圧迫の懸念があることを考慮すれば、民営化せずに郵政公社の資金量を減らすという岡田さんのプランは検討には値するとは思います。でも私はこのプランには2つの疑問があります。

 まず1つ目ですが、預入限度額をいつ、いくらに引き下げるのか、きちんと決められるのか、ということです。このプランは預入限度額を操作することで公社の資金量を調節して、国債の引き受け額を郵政公社が決めることになります。決める人は公務員、役人です。国債の引き受け額は、暴落しないことを前提としながらも、経済の実態に合ったものにならなくてはなりません。一方で国債発行残高が減って、予算が足りなくなって大変な思いをするのは財務省の役人です。部署が違うとはいえ、役人が役人の嫌がる政策を遂行しなければならないという構図です。果たしてどこまで徹底できるのでしょうか。かといって郵政公社の役人が意地になって、国債が暴落しては元も子もありません。いずれにせよ生身の人間が決めることです。どんなに優秀な官僚でも間違わない保証はありません。

 この点、民営化なら需要と供給という市場原理に任せることで、経済状況に応じた判断が、誰かの意思を排除してなされるわけですし、何より財務省の役人との馴れ合いの懸念もありません。10年間の政府の関与によって、市場の暴走を防ぐセーフティネットも準備されています。

 2つ目の疑問は、雇用をどうするのかということです。預入限度額を引き下げて、公社の資金量が減れば、公社の人員に余剰が生じるはずです。余った人はどうするのでしょうか。余った無駄な役人の首を切るのに、なんら躊躇をする必要はないという考え方もできますが、余剰となってしまった人にも生活はあります。民営化担当大臣の竹中さんは、預入限度額を減らさなくても郵政の資金は今後減少すると見ています。当然人員の余剰は出ますが、民営化によってコンビニなどの新規事業を行うことができれば、ある程度の余剰人員は吸収できるといいます。民営化した後であれば政府が雇用のことまで関与する必要はないともいえますが、新規事業をやる機会を与えることで失業する人を減らす可能性を提供しています。それこそ失業保険などの社会保険の負担が少なく済むのはどちらなのかは明らかです。

 民主党の支持母体には郵政公社の組合もあるそうですが、真に組合員の雇用を考えるなら組合はどちらを支持すべきかおのずと見えてきそうなものです。さすがにいきなり自民党の法案支持を言えないのかもしれませんが、そこらへんが組合の幹部の人たちの限界なのかもしれません。

 郵政民営化にYesかNoかという論点だけで選挙を行うことは、他の政治課題が見えなくなって危険ではないかという意見もあります。確かにそれは正論ではありますが、この問題に早くケリをつけなければ財政再建の道筋が見えてこなくて、年金などの重要課題を展望することも難しくなります。少なくとも郵政の問題は、今の日本のあらゆる内政問題に係わる事柄です。争点のわかりやすい選挙であるメリットも大きいはずです。このような認識のもとで、賛成派・反対派それぞれの政治家の話を聞いていきたいと思います。

 

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