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2005.12.09

増税と長期金利

 国の借金はGDPの160%にも及び、財政の健全化は急務といわれています。でも、増税の議論をしようとした財務大臣の谷垣さんや経済財政・金融担当の与謝野さんが、それだけで閣内で冷遇されてしまうというのは、どうも気の毒で仕方ありません。私は増税はしないで済むならそれに越したことはないと思いますし、消費税を上げるなら所得税や法人税を下げて、直間比率の見直しまで踏み込んで議論すべきだと思っていますが、増税というだけで議論さえさせないというのはどんなものかという気がします。ただ、学者出身の竹中さんが、「増税を口にする人は形を変えた抵抗勢力だ」などと言って議論さえも封じ込めようとするからには、増税しなくても歳出削減だけでも財政再建を進めることはできるという確信があるのかもしれません。

 日本の財政は借金漬けで大変だといわれながら、発行される国債は順調に消化されています。長期金利も高騰する気配はなく、今年も1.1%台から1.6%強の範囲で収まっています。借金漬けの政府が発行する債券が1%台です。それでも個人向け国債は人気で、これまでの10年の変動金利のものに加えて、5年の固定金利のものもラインナップに加わっています。金融市場の動きを素直に解釈すれば、借金漬けといわれていても、日本政府はこれを踏み倒すことなくきちんと返してくれるだろうと多くの人が思っているということになります。すなわち、日本の財政は危機的だと本気で騒いでいる人はあくまで少数派だということです。市場参加者の多数派が必ずしも正しいとは限りませんが、リスクをとって投資をしている人たちの判断は、リスクをとらずにただ大変だと騒いでいる人と比べれば、信用するに足るように思います。

 一方で、銀行など市場での有力なプレイヤーが国債を大量に抱えてしまったために、これらのプレイヤーは国債が暴落しては困るから買い支えざるを得なくなっているということも考えられます。その側面は否定しませんが、それだけで説明がつくとは思えません。だいいち、日本の国債市場は一部のプレイヤーの思惑で、長期間押さえつけられるほど小さくないはずですし、個人向け国債が売れるのは銀行の思惑だけでは無理でしょう。公取委から排除勧告を受けた三井住友銀のように、個人向け国債を中小企業の経営者に強制したという話は聞いたことがありません。

 「国の財務書類」という資料があります。財務省が作っている国の決算書のようなものです。最新のデータで平成15年度のものですが、この中の貸借対照表を見ると、資産が696兆円で負債が941兆円になっています。245兆円の債務超過です。けっしていい数字ではないのですが、国債が売れ残って価格が暴落せずにいるということは、国債市場はまだこの債務超過を許容範囲と見ているということです。

 ただ、債務超過額は平成14年度より3兆円増えています。245兆円は許容範囲でも、これ以上債務超過額が増えれば許容範囲を超えるかもしれません。普通に考えるなら、まずは早急に歳出を削減して、とにかく債務超過額の増加をストップして、その上で増税など歳入の増加策を講じて債務超過額の縮小に取り組まなければなりません。この流れで考えれば、谷垣さんや与謝野さんの考えも無茶なことではありません。至極もっともなことです。

 しかし、増税に頼る対策では景気にいい影響は与えません。景気が悪くなれば、国債を消化してくれる人たちの懐にダメージを与えて、それによって国債の購入が難しくなって、その結果として暴落を招く恐れもあります。ベストなのは、やはり歳出削減だけで債務超過を解消することです。それが可能なのかどうかはわかりません。可能であったとしても時間がかかりすぎては意味はありません。

 増税を回避して政府の歳出削減を加速するためには、国債が暴落しない程度に長期金利が上昇することが必要なのではないかと考えています。長期金利が上がってくれば、設備投資への影響が懸念されてきて、景気を引っ張ってきた設備投資に冷や水をかけるような増税策は取れなくなります。そして、国債による資金調達コストも増加しますから、政府も官僚も歳出削減に励まざるを得なくなります。

 とはいっても、国債が暴落しない程度に引き上げる長期金利の水準が、どの程度なのかが難しいところです。正論とはいえ増税を口にする政治家がいる今の長期金利の水準が適正ではないことは確かでしょうし、必要以上に金利が上がりすぎても本当に景気が後退してしまいます。短期金利はゼロ金利を維持しても、これからは長期金利が手探りをしながら緩やかに上昇していくことが望ましいように思います。もしそうならずに、そして財政の債務超過にも改善が見られなければ、その時は増税を受け入れるしかないのだろうと思います。

 

 

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