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2008.01.15

誇るだけではなくて

 日経新聞の夕刊に、「あすへの話題」というコラム欄があります。曜日ごとに様々な分野の人が執筆していているのですが、今年から金曜日は防衛大学校長の五百旗頭真氏が担当していて、先週の金曜日、11日もそのコラムを拝読しました。

 「富の格差」というタイトルで、産業革命以来、世界的に工業化の進展と富の格差は、通常コインの表裏であるのだが、戦後日本は稀な例外で、日本人は「格差の少ない豊かさ」という歴史の例外を生み出したことにもっと誇りをもってよいと思う、という内容でした。

 確かに「格差の少ない豊かさ」を実現して、世界でもトップクラスの経済大国にまでなったことは誇るべきことですが、それを生み出してきた理由として五百旗頭氏があげているのを読むと、単純の誇っているだけでいいものかどうか疑問に思えてきます。

 五百旗頭氏があげている理由は次の3点です。

①累進所得税
 松下幸之助も司馬遼太郎も、所得の75%が税に取られると苦笑していた。国による所得再分配は、戦後日本にあって大規模であった。

②春闘方式
 トップ企業の労使が徹夜交渉の末、ベースアップ率を合意すると、それに準じて他の企業もストを打つことなくアップ率を決めた。中小企業の労働者も毎年の所得上昇を得た。

③保守政権による農家への手厚い保護政策
 世界に常である工業化に伴う農家の貧困化は、戦後日本に生じなかった。

この3点は、「格差の少ない豊かさ」をもたらした要因であることは、確かにそうなのだろうと思います。しかし、今後も「格差の少ない豊かさ」を継続していきたいと思うのであれば、この3点は誇ることではなく、むしろ克服しなくてはならないことと自覚する必要があると思います。

 累進課税は最高税率が75%から40%へとずい分緩和されましたが、最近の格差是正の掛け声の下、再び税率を引き上げることがあれば、能力のある人のやる気をなくすだけです。松下幸之助も司馬遼太郎もただ苦笑いしていただけではなく、やる気をなくさせるような、足を引っ張る税制にウンザリするからこそ“苦笑い”していたのではないでしょうか。

 春闘方式によって、中小企業の賃金までトップ企業に準じて引き上げたために、中小企業の経営難が常態化してしまい、優れた技術力があってもいまだに弱い立場におかれています。農家への手厚い保護政策も、それがために国際競争力を奪った側面は無視できません。

 こうして見ると、「格差の少ない豊かさ」を実現したこと自体は誇っていいと思いますが、それを実現する過程では必ずしも誇れることばかりではなく、むしろそれが現在の格差の原因になってもいることに目を向けなければなりません。五百旗頭氏のコラムを読んでいると、「格差の少ない豊かさ」を実現した要因であるにせよ、改善すべき旧体制の遺物への郷愁を美化していると感じてしまうのですが、そんなことで過去の栄光を誇ってもあまり意味のあることとは思えません。

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